2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

オンライン小説「格差社会」22

翌日からチエミはフィットネスクラブの会員になり、毎日1時間のトレーニングを自分に課したが、このために非常に忙しくなった。 水商売などしていて、店は7時ぐらいからしか開かないのだから、昼まで寝ていられて、ヒマなのだろうと客にはよく言われる。「そ…

私の職業生活4

この会社を辞めた後、しばらく派遣社員をしたのだが、英語ができた(当時は読み書きだけだが)せいで、外資系にも派遣された。 まず驚いたのが、オフィスがゆったりと広く、1人1人の場所が確保されていることだった。日本の会社では、汚いねずみ色の事務机の…

私の職業生活3

昼休みに赤裸々な性体験が聞けたこの会社で、もう一つ感心したのが、社内カップル続出ということだった。20人ぐらいの部署で、いつも2,3組はつきあっていて、バトルを繰り広げたり、ペタッとくっついたり、毎朝手をつないで出勤してきたり、ということがあ…

私の職業生活2

ところで日系では差別されるから外資系に勤めたいと思うと同時に、私には夜間大学に行きたいという希望もあった。家にお金がなかったのと、高校時代に勉強を放棄した結果として大学に行けず、専門学校を卒業したのだが、やっぱり大学は出ておかなくてはと思…

私の職業生活1

このたび会社を辞めることになった。どういうことかといえば、「外資系・人事部長」の世界から引退しようという決心をしたのだ。 「外資系・人事部長」の世界で15年ぐらい生きてきたが、そろそろ卒業させてもらいたいと考えた。 卒業するにあたって、自分に…

オンライン小説「格差社会」21

スタジオに戻り、原口の見たてた服を着て、スタジオ所属らしいヘアメークがメークした。鏡に映った自分は、まるで、ファッションモデルのようだった。ファッションモデルを専門にしている人間たちが手をかけたのだから当たり前だが。 原口は鏡の中のチエミを…

オンライン小説「格差社会」20

チエミのファッション・コーディネイトをしてあげようと原口が言い出したのは、店からの帰りがけだった。理由を聞くと 「なんかさあ、応援してあげてもいいかなあって思うのと、キミの顔ってね、やり方によってはすごく面白くなりそうなんだよな。でも普通の…

オンライン小説「格差社会」19

ゲイの男は、小田原のバイト先でも、キャバクラでも、たまにボーイや調理場として働いていることがある。彼らがゲイだということは職場では周知の事実だった。なぜか、分かってしまうものなのだ。 その中でのチエミの数少ない経験では、ゲイの男は清潔で、几…

オンライン小説「格差社会」18

渋谷の店では一月働いて手取り50万円、歌舞伎町では時給があがり、若干、同伴出勤や指名の手当が入り始めたので60万円を超えた。しかし出費も多く、3ヶ月で20万円残すのが精一杯だった。 出費は、チエミのいわゆる「武器」を調達し、磨くためで、必要な投資…

オンライン小説「格差社会」17

1ヶ月渋谷で勤めたあと、チエミは歌舞伎町の店に移った。自営業の富裕層の客が多いという噂を聞いたのと、最終目的地である銀座には自分はまだ早いと考えたこと、六本木は派手すぎて自分に合わないように思ったのだ。 移ってみてわかったが、歌舞伎町には確…

オンライン小説「格差社会」16

根底が「スケベ」であることは男全員に共通しているが、いろいろなタイプの客がいる。多いのは、自慢したいタイプで、仕事のこと、会社のこと、家柄、子供の学校、妻の出身校など、あらゆることを自慢する。よくそんなことが自慢できるものだと呆れてしまう…

オンライン小説「格差社会」15

初日にいきなり延長や場内指名が取れたのは、ビギナーズ・ラックというものだった。顔もルックスもそこそこのレベルでしかないので、いきなり人気者に躍り出ることは不可能だ。じっくりと男たちの歓心を買うように努力するしかない。それに知性を隠さなくて…

オンライン小説「格差社会」14

「エリカ」の初日の前に、チエミは佐緒里のアパートを引き払い、ビジネスホテルに移動した。佐緒里のアパートには二泊しかしなかったが、明らかに佐緒里は良い子ぶってチエミを引き受けるのでなかったと後悔している様子だった。このうえ、水商売をして夜中…

オンライン小説「格差社会」13

チエミはまず、いきなり大きな店で競争するのではなくて、女子大生が小遣い稼ぎにやってくるような、厳しくなく時給も安めの店に入り、商売を覚えようと考えた。 ネットや求人誌で調べて、素人っぽさを売り物にしているような渋谷の店に行ってみた。 開店前…

オンライン小説「格差社会」12

その次の美由紀の休みの日に、メイクのしかたを教えてもらった。アイラインをひいたり、つけまつげをつけるのが難しい。髪のセットも自分でやるのは大変だった。もう半年以上美容院に行っていないのだが、金がなくて安い床屋でメチャクチャに切られてしまう…

オンライン小説「格差社会」11

美由紀は錆だらけのRX−7でチエミを巨大ドラッグストアに連れて行き、約三万円分の化粧品を二時間かけて買わせた。工程順にいくと、洗顔クリーム(「まだ若いから安いのでいいけど」)、化粧水、乳液、下地クリーム、異なる色のクリーム・ファンデーション…

オンライン小説「格差社会」10

チエミはバイトを三ヶ月続けた。若干のハプニングはあった。居酒屋の店長がしつこく誘ってきて、帰りに待ち伏せされたりした。それを見ていた同僚の大学生が「チエミを守るんだ」と言い出し、一週間ぐらい帰りに送ってきた。かえって迷惑だったが、断りもせ…

オンライン小説「格差社会」9

美由紀から教わったことで一番実地の役に立ったのは、メイクのしかただった。チエミは、真面目に思い詰めた顔をしたやせっぽちだ。目が大きいのだけが取り柄だが、知性が宿っているので、かえって水商売には邪魔である。このままでは到底東京のちょっとした…