2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

千葉でバーネット・ニューマンを観る

川村記念美術館が千葉にある素敵な美術館であることは、前にも書いたが、今回ここで日本初だとかいうバーネット・ニューマン展が行われるというので、再度、訪れた。 美術館は、小田原のご近所である箱根にもたくさんあるのだが、まず一回行けばごちそうさま…

オンライン小説「格差社会」46

銀行のATMで五十万円が振り込まれたのを確認して、冬の街に出たとき、チエミは一生で一番というぐらいの寂寥感に襲われ、思わず座り込みたくなった。目を伏せてとぼとぼ歩きながら、涙が出るのを止めることができなかった。ずっと一人で生きてきたが、一人で…

オンライン小説「格差社会」45

五十万円という金額は、篠崎とつきあっているうちに、チエミがこの金額なら篠崎は出せると踏んだ金額だった。百万円といえば、篠崎は無理だと言って突っぱねるだろうし、三十万円とか四十万円では、チエミの気持ちはおさまらない。 「なんで手切れ金が要るの…

オンライン小説「格差社会」44

生まれて初めて好きになった男が、自分に友情以上のものは抱かないというので、チエミとしてはドロドロした感情は隠すしかなかった。二人のつきあいは、スポーティーで明るいものになった。会えば喫茶店に行き、一緒に買い物もした。夜まで一緒にいる時はセ…

オンライン小説「格差社会」43

日曜日の昼からチエミは篠崎とベッドにいた。チエミは健康な十九歳の女性だったので、ひとたび性の欲望に火がつくと、きわめて自然にそれを貪った。終わるとシャワーを浴びたり、ワインを飲んだり、軽く食事したりして、またベッドに戻っていった。そんなこ…

オンライン小説「格差社会」42

チエミはスポーツクラブで毎日篠崎と顔を合わせた。今は時間を合わせて会っていて、終わるとスターバックスでコーヒーを飲んだ。次の日曜日に自分はどうするのだろう。篠崎は何も誘ってこないから、会うつもりがないのだろうか。そんなことを考えて不安にな…

オンライン小説「格差社会」41

チエミは自分の心が制御不可能になってしまい、一目散に篠崎に向かっていくのを、手のくだしようもなく観察していた。客観的に冷笑する目だけはなくすまいと思って、必死で例の日記ノートを書いていたが、それもどうしようもなく篠崎の美化と思慕で終わって…

スケッチ−ある高卒男子

彼の親は小さな建築会社を経営していた。彼が中学生の頃までは裕福な暮らしをしていたが、高校に入学する頃に、景気のせいと父親の体調がすぐれなかったせいで、大口の取引先を失った。わずかばかり収入があっても、材料費と事務所の維持に消えてしまう状態…