2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小淵沢の美術館

昨日は小淵沢で、キース・ヘリング美術館とアフリカン・アート・ミュージアムに連れて行ってもらった。 どちらも最近できたようだが、美術館としては、どちらも大きな立派な、意匠を凝らした建築であり、キース・ヘリング美術館のほうは、建築の賞ももらって…

オンライン小説「格差社会」29

原口のゲイの仲間七人に、チエミはたまに旅行に連れていってもらうようになった。銀座の店は週一日は休めたし、一週間ぐらい前に言っておけば休暇を取ることもできた(もちろん無給だ)。稼ぎが減るのはイヤだったから、チエミは一泊か、せいぜい二泊三日の…

壁塗り職人の1日

住宅の壁を塗るのが彼の仕事である。がっちりした身体に、角刈り、ペンキで汚れた作業着を着て、口べたな男だ。工務店から仕事を請け負い、現場に出かけ、日がな一日、壁を塗る。 幸いにも、二社の工務店から切れ目なく仕事が入ってきているので、仕事には困…

川村記念美術館

昨日、n2さんから教えられた川村記念美術館に、マーク・ロスコとパトリック・ニューマンを見に行ってきた。美術館の描写と作品のインパクトは、n2さんのブログ小説で語り尽くされているので、今さらなのだが、あれは「千葉にはあるまじき美術館」である。千…

オンライン小説「格差社会」28

原口のプロデュースによる写真が雑誌に掲載されたのは5月だった。埋め草としてキープされていたらしく、ようやく出番が回ってきたのだ。チエミは東中野から、店からタクシーで帰っても安い人形町に引っ越していたが、郵便局にだけ転送届を出していたので、郵…

オンライン小説「格差社会」27

チエミは反復することで鍛えられるものがあると信じていたし、くそ真面目な性格だから、その日も情報収集のための図書館通いとジムを休まなかった。しかし感情がひどく波立った日だったので、ついつい、集中できずに、佐緒里のこと、佐緒里の両親のこと、そ…

オンライン小説「格差社会」26

手回しのいいことに、母は鞄から便箋を出した。 「いい、言うとおりに書いて。『私は二度と阿部佐緒里さんに、いかなる形でも迷惑をかけません。また、佐緒里さんには決して会いませんし、いかなる手段でも連絡も取りません。もし右に違反した場合は、金100…

オンライン小説「格差社会」26

「お腹すいてない? 何時に小田原を出て来たの。東海道線が混んだでしょう」チエミはチャラチャラと調子よく喋った。客だと思えばいい。「サンドイッチでも食べようか」勝手にコーヒーとミックスサンドイッチを頼んだ。「さて、どうしてここが分かったの?」…

オンライン小説「格差社会」25

銀座に出勤しはじめて1週間経った4月のある日、東中野のアパートで、昨晩来た客へのメールを打っていると、チャイムが鳴った。このアパートにも、ろくでもない木のドアしかついていなくて、チエミは時々不安になる。店には学芸大学の佐緒里の住所を届けてい…

オンライン小説「格差社会」24

1ヶ月後、約束どおり、撮影があった。毎日地道に、同じ運動を1時間ずつ続けた成果で、チエミの身体は驚くべき変貌を遂げていた。相変わらず細くて、胸もペチャンコだが、胸と背中にしっかりと筋肉がつき、背筋が伸びたので、洋服の見栄えがするようになった…

私の職業生活5

その後予定どおりアメリカに留学し、帰国後は外資系企業に勤めたのだが、人事をやろうとは思っていなかった。当時は私は貧乏からなんとか抜け出したいと思っている、上昇志向しかない女だった。だから流行りの「マーケティング」なんかをやっていたのである…

オンライン小説「格差社会」23

そんな忙しい生活ではあったが、チエミはたいへん孤独だった。気を許せる友達も家族も恋人もいない。 考えてみれば、そんなものが居たのは、中学校までだった。家族はもともと信用していなかったが、小学校と中学校では多少は仲のいい友達がいた。しかし高校…

退職にあたり

先週末で会社を退職、6月から次の会社に行くまで、3週間ほどの「バケーション」期間となった。 退職した会社だが、かなりユニークだった。とにかく、人のワルクチを言わないで、良い所、美点を見つけるようにしている人が揃っていた。もちろん例外はある。…

ら・ふろらしおん(仮名)マダムの独白 最終回

夫の死後、10年間なんとかやってきたけど、設備が古くて全面リフォームが必要なのよ。分かってるけど、お金なんかないわ。何回も言うように、シーズン中しか客は来ないし、冬なんて悲惨よ。冬に一人旅の人なんて、かえって自殺しそうで気持ち悪いから、断る…

ら・ふろらしおん(仮名)マダムの独白7

夫が青山の店の権利を売ったお金で、安房鴨川にら・ふろらしおんをオープンしたの。バブルがはじけてすっかり日本人が落ち込んでいる時だったから、かなり安く買うことができたわ。あたしがアンティークっぽく内装して、店にあった品物を飾り付けたのよ。 従…