2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

苦痛から立ち上がれ

わが社の若者たちはずいぶん恵まれない環境にある。沖縄や東北の僻地で育ち、典型的な例は、親は真面目な人間なのに仕事がなく、四人も兄弟がいて、誰一人仕事がない。東京の会社に採用されると、わずかばかりの給料を、親と兄弟に仕送りする。仕事は苛酷で…

オンライン小説「格差社会」36

日曜日に篠崎のマンションですき焼きをしようということになり、ジムを終えたあと、二人でスーパーに買い物に行った。篠崎は料理もするらしく、迷わず必要な食材を買っていく。 チエミがいつも客に奢ってもらうのは、焼き肉か寿司で、すき焼きというものは実…

いまさらですが、デヴィッド・ボウイ

本当に今更なのだが、デヴィッド・ボウイの若いころの写真を発見して、惚れ直してしまったていうか、見ながら「うおー、たまんないな」と、まるっきり中年ドスケベオヤジのような反応をしてしまったのである。なんだかなー。歳はとりたくない。 とにかくこの…

オンライン小説「格差社会」35

「なぜ、そう思うんですか?」チエミは聞いた。 「だって、毎日毎日、休まずにジムで同じ運動をしているでしょ。決して暇つぶしでは出来ないことだよ。そして、軌道から外れるのは恐いと言う。それは藤巻さんが、必死で軌道を外れないようにしているからでし…

オンライン小説「格差社会」34

近くのスターバックスで篠崎を目の前にしたとき、チエミが感じたのは、静かだなということだった。店の客とか、マネージャーとか、たいていの男からは、権力欲や、プライドや、何かへの渇望(たいていは金とセックス)、あるいは屈折した感情、妬みとか自暴…

オンライン小説「格差社会」33

その後、篠崎とはジムやプールで会い、軽く雑談するようになった。 「自転車を漕いできたから暑い」ジムに入ってくる早々、汗を拭きながら篠崎が言う。 「いつも自転車ですか」 「そうだね、だいたい。信号の手前の坂、あれがきついな」 「そうですね、あそ…

オンライン小説「格差社会」32

良かったのは、男がいきなり会話に入らず、3日間は「こんにちは」プラス笑顔のやりとりだけで終わったことだ。ガッついた男は、ただでさえスケベな男に飽き飽きしているチエミには拒否反応しか呼び起こさなかっただろう。 そして4日目に男が言ったのも、ごく…

オンライン小説「格差社会」31

チエミは毎日フィットネスクラブに通い、同じ運動を行っていた。5種類のマシンによる筋肉トレーニングが30分、ランニングマシンが30分で、合計1時間。強度は徐々に上げていったが、半年間、そのメニューは一切変えなかった。エアロビクスなどのクラスにも出…

オンライン小説「格差社会」30

水商売を始めてから1年経ち、収入は100万円前後で安定していたが、それは常に研究しつづけ多大な労力をかけている話術と、それぞれの客に対して綿密に考えられた作戦、高価なメイク、斬新なファッションの賜物で、決してチエミが女として魅力があるからでは…

裁判所で名前を変更する

かねがね自分の名前はあまり好きではなく、かといって、憎むほどでもなかったが、その程度の薄弱な理由でも、数年通称を使用した実績があれば、戸籍上の名前も変更できるというのは、意外に知られていないかもしれない。 私の場合だが、なぜ名前を変えたいと…

新しい職場3 生きていたくないかもしれない

私は母の仕事の都合で黒板屋の工場に住み込んだことがあって、言っては悪いが底辺の生活みたいなものも見た。なにしろ黒板を作っている労働者は、性欲と物欲と酒だけで生きているようなもので、仕事は極めて適当、すぐ同僚と喧嘩するし、遅れる、サボる、辞…

『孤高の刑事 ジョージ・ジェントリー』

AXNミステリーで『孤高の刑事ジョージ・ジェントリー』というドラマを放送していて、計8回を見た。1960年代のイギリスの地方警察が舞台で、ベテラン警部ジョージ・ジェントリーと、若手ジョン・バッカスが登場する。 イギリスのミステリー・ドラマは質が高い…

新しい職場2 抜け出せない貧困

聞いてはいたが、給料は安い。基本給が10万円台である。それに様々な手当がプラスされて、税込み25万円ぐらいが平均。賞与は出ないことが多い。だから年収300万円ぐらいで、三〇代、四〇代の男たちが家族と暮らしている。 申し訳ないが、外資系でやたら高い…

新しい職場1 反・パーティション

このたび転職したのは日本の製造業である。外資系からなんでそんな会社にと言われると、確かに珍しいことだと思う。 私は外資系で個室をもらって、一日に50本ぐらいメールを書く生活を続けてきて、実は寂しくなったのである。部屋から出て、わざわざ誰かと話…