オンライン小説「格差社会」20

チエミのファッション・コーディネイトをしてあげようと原口が言い出したのは、店からの帰りがけだった。理由を聞くと
「なんかさあ、応援してあげてもいいかなあって思うのと、キミの顔ってね、やり方によってはすごく面白くなりそうなんだよな。でも普通のメイクと服装でいくら頑張っても無理なんだよな」
原口はゲイだから安心とは思ったが、すぐに、いや、安心なんてことはないと思い直した。
「お金とるんでしょう?」
原口は苦笑した。
「とらない。大丈夫だよ」
「タダより高いモノはないって言うけど、何が見返りなのかしら」
「見返りって、ゲイなんだから、身体は要らないよう。エリカさんの写真を撮らせてほしいんだ。普通の女の子が、いかに垢抜けたかっていうので、雑誌に売り込むよ。読者はこんなに変身できるって勇気づけられるから、人気が出るんじゃないかな。僕の名前も売れるだろうし」原口はチエミをアタマからつま先まで見た。
「今はごく普通のキャバ嬢。どれだけ頑張ったって、収入は爆発的には増えない。僕がコーディネイトすれば、個性をうまく引き出して、客が目を吸い寄せられるようになる。とにかく、人間はキレイなものは、見ないではいられないんだ」
雑誌に出ると、小田原に捨ててきた親が見て、探しに来るかもしれない。しかし、無気力なタクシー運転手の父親は、競輪新聞とマンガしか見ないし、母はわりと堅い小説を図書館で借りてくるぐらいで、雑誌を読んでいるところは見かけなかった。誰かが見つけて、両親に通報するかもしれないとも思ったが、何よりも原口に色恋も金銭もなしでコーディネイトしてもらえるのは千載一遇のチャンスだ。
チエミは気がつくと「ぜひお願いします」と言っていた。
原口はまず、知り合いの写真家のスタジオにチエミを呼んで、普段着の写真を撮った。メイクもするなと言われたので、ほぼスッピンで行った。
「なんだー、高校生だなあー、マジで。作ったら、あんなになるのか」原口とカメラマンは笑い出した。「だますよなあ、まったく」
それからチエミが入ったこともない青山のブティックに連れていった。チエミだったら手を出さないような、奇抜な色やデザインの服を次々と試着させられた。案外と似合って、びっくりした。そして値札を見て、またびっくりした。
「高いー!!」
「そうだろうな。今日はとりあえず、買ってあげるよ」
「私をどこかに売り飛ばしたりしませんか?」
「しないよお。僕の仕事の宣伝なんだから、経費で落ちるし。信用しろよ」