2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

あぶく銭で何をするか

先日、某ヘッドハンターの事務所を訪ねて、ミッドタウンのレジデンス棟に初めて入った。驚いた。 まず入り口はミッドタウンのショッピングエリアの中に目立たないように隠れていて、案内嬢に聞かないと分からない。そこで部屋番号を入力して開錠してもらうの…

無理やり開国させられた日本

久しぶりに転職活動をして分かったのは、ヘッドハンターのレベルも、候補者のレベルも上がっているのだなということだ。 5,6年前までは、ろくでもないヘッドハンターに本当にしばしば当たった。基本的にヘッドハンターは、人を右から左に流すだけで、年収の…

オンライン小説2「規格外」31

その日から大学は九月中旬までの長い夏休みに入った。奈緒子はビジネスホテルの小さなシングルベッドで目を覚ました。家から寝間着替わりのTシャツと短パン、いつもの枕も持ってきたので、落ち着いて眠れた。 シャワーを浴び、着替えてメイクしていると、ド…

オンライン小説2「規格外」30

マンションの玄関まで来ると、奈緒子は走りにくい大きなサンダルで必死で走り始めた。ここは手を抜いてはいけない。 真夜中すぎとはいえ東中野あたりだとまだ人通りがある。髪の毛を振り乱して走っていく奈緒子の姿が目撃されるようにした。 百メートルほど…

オンライン小説2「規格外」29

家に帰り着いたのは十二時近くだった。 リビングからプロ野球ニュースが聞こえる。宮田が寝入っていることを願って、覗いてみた。 起きていた。 「お帰り」機嫌の悪い声だ。短パンにTシャツ。締まった身体だからまだいいが、シュロの木のような毛深い毛脛が…

オンライン小説2「規格外」28

首尾よく岩崎とラブホテルに行くことができた。 これから関係が続くかは分からない。まだ今日はお互いに様子見のところがあって、ぎこちなく、十分に楽しんでいないから、あと数回は楽しみたい。 わりと平凡なんだな――というのが岩崎と寝るところまで行った…

オンライン小説2「規格外」27

前期試験が終わる頃になると、キャンパスにリクルートスーツ姿の学生が現れ始めた。まだ説明会はないが、OB訪問などに行くらしい。 あんな紺色のスーツがいったい日本全国で何枚売れているのだろうと奈緒子は思う。百万枚ぐらいだろうか。 一度、百合子の…

オンライン小説2「規格外」26

三人の生活が始まったが、予想通りほとんどすれ違いで、一緒に食事することも滅多になかった。朝、宮田が勤めに出るのは六時半で、まだ百合子も奈緒子も部屋から出てこない。昼間は二人は出たり入ったりで、五時に百合子は出勤する。宮田は十時ごろ帰宅し、…

オンライン小説2「規格外」25

宮田準一の父は家庭内では暴君だった。市役所の戸籍係に三十五年勤めたが、外ではおとなしく、評判は良くも悪くもない。これは性格の剣呑さがなんとなく出るので、いい人だねとも言われないが、特に勤務に支障はない、という意味である。 しかし家に帰ると、…

オンライン小説2「規格外」24

「お茶を飲みに行きませんか」 時事英語の授業が終わり、教室から出ようとしている岩崎に、奈緒子は声をかけた。岩崎が虚を突かれて振り向くと、無邪気な感じで微笑んでやる。岩崎がこの授業の後には講義を担当していないことは調査済だ。授業が終わったあと…

オンライン小説2「規格外」23

奈緒子をはじめ、水商売の世界の人間ほとんどが懸念を持って見守る中、梅雨の明けた七月に百合子は宮田とハワイの教会で挙式した。そのあとハワイに一週間ハネムーンで滞在するという二人に同行することなく、奈緒子はさっさと成田に帰ってきた。一泊二日で…

オンライン小説2「規格外」22

宮田は車を持っていないので、百合子は彼が住んでいる蒲田のアパートまでアウディで迎えに行った。母が出て行ってしまうと、奈緒子はイヤイヤながら身支度を始めた。 今日は大人しそうな品のいい服装なんか絶対にしないと決めている。ドラゴンの意匠をあしら…

オンライン小説「規格外」21

「愛する男との家庭」だの「まっとうな生活」だの、宗教だの健康法だの、すべて妄執であり幻想であって、そんなものを夢見るのは馬鹿げていると斥け続けてきた百合子が、とうとう憑りつかれたのは去年のことだ。それは「家族」という観念であった。「ヤキが…

オンライン小説2「規格外」20

徳永とは百万円で一回というような付き合いではなかったが、恋愛したとはいえない。二人とも大切にしているのが自己管理、金、装身具、トレーニング、美容といったことで、気が合ったが、あまりに似ていて底が見えてしまうため、お互いにバカにしているとこ…

オンライン小説2「規格外」19

地方出身の高卒の女というのは、上条百合子に言わせると、三重苦であった。実家も貧しかったから、このままでは貧乏のまま終わってしまう。最初は店員として就職したが、給料の安さにすぐコンパニオンになり、十九歳の時には銀座のクラブで働いていた。 百合…

オンライン小説2「規格外」18

そもそも、自分たち親子が「家族」だったことがあるか。ものごころついた時から、母は自分に独立した人格であることを求めた。子どもとして全面的に受け入れ抱擁してもらったことはない。「自分で決めなさいよ」「あなたが考えるの」「気に入らないなら来な…

オンライン小説2「規格外」17

奈緒子はこれまでおおむね、静寂の中で一人で生活してきた。 百合子は帰宅が午前二時とか三時とか、朝方になることもある。食事の用意や掃除、洗濯をしてくれたのは家政婦だが、奈緒子が帰宅したら帰ってもらうようにしていた。というのも、良い家政婦に当た…

オンライン小説2「規格外」16

「あいつは金にはシビアだから、そんなことは許さないだろう」奈緒子の教育費をきっちり毟り取られてきたことなど思い返して、父徳永は顔を顰めた。 「まあそこはそう思うわ。金でもめるだろうから、いずれ別れると思う。それが一年後なのか二年後なのか分か…

オンライン小説2「規格外」15

「百合子さんがどういうことになっているか、知っているんでしょ」 「まあね」徳永は気まずそうな顔をした。あまり考えたくない。ものごとはいつも真剣に突き詰めないことにしているのだ。 「私がそんな男と同居することについて、どう思ってるの? 七月から…

オンライン小説2「規格外」14

外は鬱陶しく梅雨が続いており、巨大ホテルの奥まった場所にある喫茶店も薄暗かった。徳永は奈緒子や百合子と会う時は、人目につかないこの場所を指定する。隠し子騒動は御免こうむりたいのと、間違いを防止するために、女によっていつも会う場所をそれぞれ…

オンライン小説2「規格外」13

s 奈緒子は当たり前のように大検に合格し、I大学の英文科にも合格した。とことん実利的な徳永は文学部なんか何の価値もないと思っているので、それは不満だったが、頭のいいのはさすがに自分の娘だと思った。百合子がこれまた当たり前のように大学の授業料…

オンライン小説2「規格外」12

徳永が三十五歳の時、銀座のクラブのママだった上条百合子とのあいだに子供ができた。当時はまだ徳永は駆け出しで、テレビ界でのサバイバルに必死だった頃で、知っていたら子供など産ませなかったはずである。百合子は徳永にはまったく秘密で、店を休んで出…

オンライン小説2「規格外」11

テレビでは外見で少なくとも評価の八割は決まるというのが、徳永武史の持論である。高卒でカートレーサーになり、三十歳になろうという頃、スポンサーだった新聞社の重役が、テレビに出てカートレースを紹介しろと言ってきた。好きで十二年もやってきたが、…

オンライン小説2「規格外」10

太田が電話を切り、やはりため息をつきながらキッチンに立ってお茶を煎れ始めた。ついでに全員の分を煎れてくれるのが太田の優しいところだ。お茶を飲みながら桑原がクレームの内容について太田に聞く。 「会社で特殊な訳し方があるんだったら、初めてのお客…

オンライン小説2「規格外」9

桑原も太田も電話中で、永井は不在だった。私は二人に眼で会釈すると、PCに向かった。桑原の電話の相手は翻訳者で、ミスが多いことを桑原が注意する内容だ。「きちんとしてくれないと困る」と何回も繰り返している。きちんとやろうとしても、そもそも翻訳…

オンライン小説2「規格外」8

なんで森川と二人で飲みに行ったかというと、育ちがよく、それを鼻にかけることもなく、金に鷹揚でのんびりした性格だからだ。知る限りでは清潔で優しいし、がっちりした身体と好感の持てる顔を持っている。 (私に寄りかかって間違った期待をしないなら、そ…

オンライン小説2「規格外」7

「野菜たっぷりタンメン」の載ったトレイを持っている奈緒子を見つけると、森川は一瞬ドギマギしたように緊張して、それから一生懸命に手招きした。奈緒子はまさか無視するわけにもいかないので、森川の前に座った。 「奇遇だなあ。この時間はアルバイトなん…

オンライン小説2「規格外」6

森川にとって奈緒子は、難しそうな女だった。飲み屋でも自分の分は迷わずさっさと注文を決め、お酌する、取り分けるなどとんでもない。森川が注文するものに文句はつけないが、一切気は使わなかった。 「男みたいだね」と森川が言うと 「気を使おうと思えば…

オンライン小説2「規格外」5

I大学英文科三年の森川雄一は、写真部の部活の前に腹ごしらえをしようと、アドミニストレーション・ビルディング十二階のアイ・キッチンなる学食で、ミートソース・スパゲッティを注文していた。好き嫌いが激しいので、ここで食べるものはミートソースのほ…

オンライン小説「規格外」4

板橋は咳払いをして「キャリア形成シートの用紙は受け取っていますね?」と本題に入った。 「はい」 「上条さんは就職希望でいいんですよね」 「はい」大学院に進学する、就職せずに結婚するといった選択肢もある。「キャリア形成シートですが、内容を見ると…