オンライン小説「格差社会」16

根底が「スケベ」であることは男全員に共通しているが、いろいろなタイプの客がいる。多いのは、自慢したいタイプで、仕事のこと、会社のこと、家柄、子供の学校、妻の出身校など、あらゆることを自慢する。よくそんなことが自慢できるものだと呆れてしまう。チエミに言わせれば、家柄などは、自分の努力で獲得したとは言えないものだし、仕事だって、本当に自分の力で地位を築いたのか怪しいものだ。それをあたかも自分が偉いかのように自慢するのは、まったく浅ましい話だ。しかもそれは延々と続き、エスカレートし続ける。自慢に感心してみせないと機嫌が悪くなる。最後には「こんなに偉いから、お前は俺の言うことをきくべきだ」と言い出す。とりあえずこういう客は、キャーキャーとヨイショし、もっと聞かせて!とどんどん詳しく聞き、やたら気分良くさせたら飲み物や延長をゲットして、最後はなんとか体よく帰す、という路線で対処する。
この自慢タイプには「金魚のフン」がくっついていることが多い。偉いやつにくっついておこうという、これもまた浅ましいタイプだ。自慢タイプの水割りが少なくなっていると、偉そうに「ほら水割りお作りして」と命令する。煙草を出そうとした瞬間に「火、おつけして」とくる。食べ物の手配、座席の位置、女の子の割り振りと、すべて自慢タイプのために心を砕き、女の子より先に気がつく。どうしてこんなに恥知らずになれるのだろうとチエミは思うが、とにかくこの金魚のフンとは共同戦線を張って、協力して自慢タイプをもてなし、より一層金を使わせるために利用する。
一番嫌われるタイプが、ケチな男で、飲み物もヘルプには取らせないし、延長もぐずぐずしてなかなか決めない。そのわりにサービスは要求してくる。キャバクラに来るぐらいなら、気持ちよく遊べる程度の金を用意すべきだ、でなければ居酒屋に行けと思うが、こういう客は、店がヒマな時は対処のしようがない。適当に相手をして、帰るのを待つ。翌日に携帯メールを打ったりもしないし、もう来ないことを願う。
イヤなのがツケで、集金に回らなくてはならないし、回収できなければ自分の給料から引かれてしまうので、チエミはできるだけツケ払いはさせず、帰すことにしていた。
泥酔して来る奴は論外だ。何をしに来たのかもう意識がもうろうとしているので、高い金をドブに捨てているようなものだ。どうせ覚えていないと思うので、どんどん高い飲み物を注文して、高い請求書を突きつける。その男がどれだけ金を持っているかは、なんとなく分かるもので、そのちょっと手前ぐらいまで行く。
こういう環境でモテたいと思ったら、自慢せずに、謙虚に、金離れ良く、酒はほどほどに、定期的に通うことだろうと誰でもわかりそうなものだが、そういう行動をする男はほとんどいない。なんて愚かなんだろうと思う。