ら・ふろらしおん(仮名)マダムの独白 最終回

夫の死後、10年間なんとかやってきたけど、設備が古くて全面リフォームが必要なのよ。分かってるけど、お金なんかないわ。何回も言うように、シーズン中しか客は来ないし、冬なんて悲惨よ。冬に一人旅の人なんて、かえって自殺しそうで気持ち悪いから、断るしね。
とりあえずあたしが死ぬまで、もたせなきゃいけない。あと10年ぐらいしたらここを売って、安い老人ホームに入る。あとは知らないわ。あたしと夫が始めたことに群がってきた親族なんて、面倒みてやってるだけでありがたく思ってよ。挙げ句の果てに不登校気味の子供とか、出戻りのいとこなんかまで、雇ってくれって言うし。すごく安い時給で働いてもらってるけどね。
ホテルの仕事って朝から晩まで大変なのよ。あたしは毎日コマネズミのように働いてるわ。掃除だけでも一苦労よ。庭の手入れもあるし、料理の指示、予約の確認、仕入れ業者との対応、全部あたしがやってるのよ。従業員数はギリギリまで絞ってるから、自分でやらなきゃ。おかげさまで丈夫だけど、でももう60歳だからね。
それなのにインターネットで悪口を書かれるのは、本当にひどい世の中だわ。あたしは払ってもらったお金なりのことをしているだけなんだから。それ以上のことを要求されても、コストがかかることなんだから、やるほうがおかしいでしょ。慈善事業じゃないんだから。
フランスどころか外国には一度も行けなかったけど、全体として見ればあたしはうまくやってきたほうじゃないかしら。中卒で、親に何もしてもらえなかった割にはね。あとは静かに死んでいきたいわ。ホテルの近くにお墓も買ったの。親と一緒のお墓には絶対に入りたくなかったのよ。それまで『ら・ふろらしおん』は低空飛行で続けていくわ。このままでね。
(了)