ら・ふろらしおん(仮名) 7

食後にはどこかのスーパーで買ってきたような小さなケーキが出て、コーヒー紅茶はセルフサービスであると言われた。見ると、コーヒーのみならず、紅茶を電熱器の上に置いている。あれは煮詰まってすごいことになっているぞ。お湯を置いてティーバッグを置いておくという発想はないらしい。
そして、ティーカップがデミタスカップなのだ。コーヒーを大量に飲まれたくないということだろうか。他の客たちは何回もコーヒーを取りに行っていた。
私は「もう付き合わない」と思って、立ち上がった。明朝タクシーを呼んで貰おうと、フロントに声をかけた。
昼間より化粧が濃くなったマダムが現れた。タクシーのことは普通に受けてくれたが
「その時間に出発されるんでしたら、いまご精算いただけます?」と来た。出発時間は9時すぎである。そんなに早い時間ではない。
しかしこのマダムと喧嘩したら、夜中にゴキブリを投げ込まれるかもしれないなあ、と思って、私はぐっと我慢し「いいですよ」と言った。
会計は9000円台である。明細を示しながらマダムは
「もうKさん、ラッキーですよ、こんなの素泊まりの料金より安いもの」
あの民宿タコ部屋が素泊まり1万円以上するんだと私は呆気にとられた。あの部屋だと分かっていたら私は1万円は絶対に払わない。他の客もあれで1万円払っているなんて、気の毒だ。「この時期うちはまず1人の客はとらないし(「1人のお客様はお断りしているし」だろう)、絶対にこんな値段じゃ泊まれないんですよ」
「そうですか、ご迷惑でしたね。来なければよかったです」私は精一杯、皮肉を込めて言ってやった。
客商売の人間が、客に来なければよかったと言われたら、自分の言動をはげしく反省すべきではないだろうか。
しかしマダムは、フン、と私を無視した。
世の中には、どうやっても反省しないし、すべて他責という人間がたくさん居る。このマダムもその類だ。そんな奴に労力を割くだけムダだ。こんな奴が、私はフランスに行った、アンティークも集めた、素晴らしいんだと自慢して、まずい金目鯛の煮付けをフランス料理と銘打って提供して、金を儲けている。理不尽な世の中だ。