伊勢志摩旅行記3

今日で賢島を離れるので、英虞湾クルーズに乗ることにする。賢島駅の海岸側は、非常に寂しい。誰もいないし、店はシャッターを閉めているし、波の音がするだけ。こういう所が大好きなので、私はハッピーだ。

クルーズが出発するまでの時間つぶしに、護岸壁みたいなところに座って静けさを味わっていると、一台のライトバンがやってきて、おじいさんが降りてきた。クルマから牛乳のケースや、「キュウリ」と書いた箱などを積みおろして、海のそばの路上に置く。なんだろうと思っていたら
「まだしばらくここにいる?」とおじいさんが聞いた。
「ええ、あと5分ぐらいなら」
「じゃあ、よかった。船を回してきてこれ積み込むまで、居てもらえると。カラスが来るから」
おじいさんはそう言って、堤防につないである船に向かった。見たところ80歳ぐらいかもしれないが、船の上を歩いて舫を解いたり、重い荷物を運んだりと、よく働くのである。こういう方々が運んでくれる物で、私たち都会の人間は生活しているのだ。しかしほとんど感謝もされないのだ。切ない気持ちになった。

クルーズは靄がかかる静かな英虞湾を五〇分ほどで一周する。非日常である。英虞湾では真珠の養殖をしているわけだが、冬期は寒さでアコヤ貝が死んでしまうので、紀州のほうに引っ越すのだとか。またアコヤ貝に、ドブ貝というかわいそうな名前のついた貝で作った芯を埋め込んで、真珠にするんだそうだ。

賢島駅に戻り、近鉄特急で二時間かけて名古屋へ。ノリタケの森という、陶磁器のノリタケのテーマパークみたいなところに行く。もう少しゆっくりして絵付け体験をしてみたかったが、間に合わなかった。

夕食は「ひつまぶし」(ひまつぶしではない)を食べると決めていて、熱田神宮近くの「蓬莱亭本店」へ。松阪牛の時と同じで、確かに美味しいけど、東京でも食べられるし、東京の鰻重でもいい。東京からわざわざ来るほどじゃないというのは、一度来てみなければわからない。

ただ、どこの店に行っても、名古屋圏の人は商売熱心だ。地下鉄でも「ありがとう」と言われたし、客あしらいはとても良い。東京でも見習え、と思う。