ら・ふろらしおん(仮名)マダムの独白6

25歳から8年間、水商売をして、銀座の端くれまでは行ったの。ちょうどバブルだったから、男どもがバカなお金の使い方をするのを、囃し立てて、もっと使わせて。一晩で100万使うなんて、けっこうあったわよ。あたしも稼いだけど、着物やエステなんかで大して残らなかったわ。あたしって、どうも蓄財の才がないのねえ。貧乏だったから、お金がない恐怖は知ってる、だから一生懸命働くのよ。でもお金があると全部使ってしまうの。あら、このお金でもっとマシなマンションに移れるわ、とかね。まあ、あの頃は日本中みんなそんな感じで、これから経済はもっともっと良くなるから、今使っても大丈夫だみたいに思っていたのよ。とんだ間違いだったわ。
水商売も最後には結局、あたしより美人はうじゃうじゃ居るし、若い子にもかなわないことが分かったの。このまま続けても、ジリ貧よ。何かちゃんとした根城を持たないといけないって、最初の結婚をしたときもそう思ったんだけど、二度目もそういう動機で、20歳年上で男やもめだった古物商と結婚したの。
青山の骨董通りに店を持っている、ちゃんとした人だったわ。あたしが店番すれば店に華ができるって、向こうはそれも狙いで、でも自分にとっては若い女と春よもう一度ってことよね。今までそんな話はいくつもあったけど、相手が歳をとりすぎていたり、妾になれって話だったり、前妻の子供がいたり、あまり魅力を感じない話ばかりだったの。あたし子供は苦手なのよ。両親も子供が嫌いだったけど、あたしも似たのね。
ところがこの古物商は、実はゲイ、ていうか両方いける人だったのよ。だからあたしの他に、男の恋人を外に囲っていたの。そして両方、半分ずつ行き来するのよ。俺にとっては両方大事なんだ、お前に不自由はさせてない、の一点張り。あたしに対して冷たくもないし、お金も気前よくくれたし、店番して困らないように、商品のこともちゃんと教えてくれたんだけど、なにしろ週の半分は彼のところに行ってしまって、いないのよね。
そんな生活が5年も続いて、あたしはちょっとノイローゼになってしまったの。今日はどうなんだ、明日はいるんだろうか、彼のほうが大事になって離婚を言い出されないだろうかって、心配ばかりしていたでしょう。別に20歳も年上の男に惚れたわけじゃなかったけど、あたしの生殺与奪を握られていたからね。
でもあたしから離婚を言い出す勇気はなかったわ。もう40歳近くなっていて、水商売も出来ないし、宅建がとれなかった不動産屋もダメだし、何をして生きていけばいいのか分からなかったの。
それで夫にペンションをやりたいんだって相談したのよ。東京の暮らしにも疲れたから、田舎に行きたい、手切れ金として関東近郊にペンションを買ってくれないかって。そしたらなんと夫が、それはいい、俺も一緒にやるって言うのよね。古物商の商売は大して儲からなくなってきたみたいなの。つまり、バブルがはじけた時期だったわけよ。しかもバブルがはじけたと同時に、彼にも捨てられていたのよ。