ら・ふろらしおん(仮名) マダムの独白4

その100万円は、アパートを借りたりしているうちに、なんとなく無くなってしまったんだけど、一つ良かったのは運転免許を取ったことよ。ここでまとまったお金を手にしていなければ、一生免許は取れなかったでしょうね。そして教習所に来ていた、免停を食らった不動産屋の社長がいたんだけど、うちで働かないかと言ってくれたの。まあ、あたしの顔で、客を呼び込もうぐらいの魂胆よ。でもあたしは前夫が不動産屋だったから、要領が分かる気がして、またウエイトレスに戻ったり水商売をやるよりいいと思って、その会社に入ったの。
自由が丘の不動産屋だったんだけど、入ってみればほとんど歩合給で、基本給だけじゃ到底暮らしていけないぐらいの金額なのよ。でもあたしは顔がきれいだし、客あしらいも上手だったし、けっこう成約させたわね。最初は賃貸をやって、次に分譲マンションや中古住宅の売買をやったんだけど、その頃はまだ経済成長期で、日本中、マイホームが欲しい病にかかってたからね。
その頃からあたしはペン習字を習ったり、モデルスクールに行ったりして、自分を高級に見せることにお金と時間を費やしたの。だって、貧乏くさい奴からは、マイホームを買いたくないでしょう。特に自由が丘あたりでは。
それに、やっぱりその頃からだけど、あたしは日本人が大嫌いになっていったの。場所がら、外国人の客も多くて、彼らは女性をとても大事にしてくれるわけよ。いっぽう日本人は、女に対してはやたら威張っていて、それも会社での地位とか家柄とかを嵩に着て、居丈高に来る。どういう根拠で、あんたのほうがあたしより偉いわけ? 日本人ときたら、貧相で、みんな同じ顔つきで、自分の地位や家柄にしがみついて、それしかなくて、勇気もなくて、大嫌い。
だからあたしは、持ち物でも洋服でも、なんでもフランス製か、フランスっぽいものを持つことに決めたのね。なんでフランスかって? そりゃ、ファッションの都パリじゃない。アメリカって浅薄で俗っぽいイメージだし、イギリスはデザイン的につまんないと思っただけ。あとの国はよく知らない。
フランス通みたいな顔してそれらしくやっていたら、本当にその気になってきて、そうしていることが好きになってきたわ。だいたい、ある役を割り振られると、わりとちゃんとこなすのかもしれないわ。ウエイトレスも不動産屋も、商売で芝居をやってるんだと思って、それなりにやったものね。