ら・ふろらしおん(仮名) マダムの独白3

当時の秋葉原は、今みたいなメイドカフェとオタクの街じゃなくて、普通の人が家電を買いに来る街。テレビでもエアコンでも、秋葉原で買ったものよ。そして秋葉原には喫茶店がほとんどなかったの。だから家電を見て回って疲れた人たちで、あたしが勤めたレストランはいつも混んでいた。
まだ16歳だったんだけど、あっという間に化粧を覚え、可愛い洋服を買いあさり、調理場の男を皮切りに、いろんな男とつきあい始めたわ。だって、16歳で東京で生き抜くためには、知らなきゃいけないことが多すぎたし、男に守ってもらって、男の持っている知識や経験を吸い取っていくのが、いちばん手っ取り早い方法だったのよ。女同士なんて、競争意識が働くから、助け合いなんかできやしない。あたしは綺麗だったから、たいていの競争には負けなかったけどね。女は彼氏ができるとそっちを優先するし、友達の男だってかまわず手を出すし、女の友達を持っても何の得にもならないわ。今でもそう思ってる。
そのうち夜な夜なディスコに通うようになって、東京での生活が楽しくてしかたなくて。だっていろいろな男が声をかけてくるし、若いだけでちやほやされるでしょう。毎日秋葉原に出勤して、仕事が終わると、すぐ赤いコートを着てマスカラをこってり塗って、ディスコに行くの。ダンスのフリを覚えるのも速かったのよ。え? 当時は、みんなで同じ踊りを覚えて踊ったりしてたものなのよ。
でもけっこう恐い思いもしたわ。洋服と化粧品で給料は使い切ってしまい、月末になると苦しいでしょう。だから思うように来られないって、ディスコで嘆くでしょう。そうすると売春しないかって言われたり、水商売やらないかって言われたりするの。でもそれをやっちゃうと、次に出てくるのはクスリだと思ってたから、やらなかったけどね。
最初の結婚は18歳。働いては遊んで全部お金を使って、みたいな生活じゃあ、この先どうなるんだと思ってね。ディスコで知り合った不動産屋なの。ルックスは良かったし、生活力もあって、ちょっとした事務所を渋谷に構えていたの。参宮橋にステキなマンションを持っていて。でもこの男、あたしの知り合いの女ともつきあっていて、結婚してからも、絶対に別れないのよ。それで女同士でドロドロの話し合いをしたり、つかみ合いをやったり、今日は別れる、明日は別れないという大騒ぎで、そのうちふっと、馬鹿馬鹿しくなってしまったの。なんで男一人のことでこんなに苦労してるんだ。自分のことでもないじゃないか、と思ってね。しょせん、愛してるとか、そういうのじゃなかったのねえ。一年ドロドロしたあと、百万円もらって、きれいさっぱり別れてやった。なんだか醒めてしまって、傷ついた気もしなかった。