今さらながら、ハムレット

今ごろこの歳になって、ハムレットを読んでいるのだが、動機はBroadchurchというイギリスの人気ドラマを観て、David Tennantのファンになり、彼がハムレットで名を挙げたことを知ったからである。それでDVDでハムレットを観ているのだが、英語字幕で古語だからさっぱり分からないので、まず原作を読むことにした。

このハムレットという男は普通ではない。というのも、敬愛する父を叔父に毒殺されて、その子供として普通ならどうするだろうか、と考えると、やはり国王になった叔父に反対する勢力を糾合して軍隊を作りクーデター、というのが常道だろう。ところがこの人は、あれこれ一人で悩んだ挙句、復讐を果たしながら自分も死ぬ道を選ぶのである。その間、恋人を捨ててみたり、叔父の罪を証明するために長たらしい芝居を作ってみたりと、そんなこと必要なの? ということをやるのだ。もう父の亡霊に自分は叔父い毒殺されたと告げられた時点で、それが本当だろうが嘘だろうが、自分も将来は殺されかねないのだから、クーデターか脱出を企てるのが当然。

だからそもそもこの男は、自身の存在に価値を見いだせないというか、死に引き寄せられる性向を持っていて、それが生きるべきか死ぬべきか、という科白になっているわけである。父の殺害はこの死への誘惑に負ける引き金になったにすぎない。

それと、復讐を遂げるまでにいろいろ悩むわけだが、父を殺されたことよりは、叔父とさっさと再婚してしまった母への愛憎のほうが強い。女はそもそも娼婦だ! という感じのバカげた潔癖さに悩まされているのである。私に言わせれば人生は生きるか死ぬかの闘いなので、母がさっさと権力者になびくのは不思議ではない。それよりは昼寝している男の耳に毒薬を注ぎ込む奴のほうがよっぽど卑怯者だ。

そんなわけでハムレットは面倒くさい男で、勝手に悩んでれば? みたいな奴で、会社にこんな奴がいたらやだな〜と思う。ただこの作品は、ハムレットにせよ叔父、母にせよ、近代人の典型を完璧に描き出しているのであって、人間は単純なものではなくいろんなことを考えて行動しているのだよ、みたいなことをつくづくと考えさせられる、名作である。